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MMT(現代貨幣理論)が嫌われる理由

日本の閉塞感を突破するには、少数意見を尊重し、 発想を大胆に転換することが大事。

政府債務は「将来世代へのツケ」にならないのです

 

 しかし、この研究とMMTとは、いったい何の関係があるというのでしょうか。実は、大いに関係があるのです。MMTは、「財政赤字を拡大してよい」「政府債務は増やしても心配ない」ということを論理的に説明しています。

 しかし、問題は「赤字」とか「債務」とかいった言葉の表現です。

 一般に、人々は、「赤字」という表現から「減らした方がいいもの」、「債務」という表現から「返済しなければならないもの」という考えを連想します。確かに、家計や企業にとっては、赤字は減らすべきだし、債務は返済しなければなりません。

 しかし、政府は通貨を発行できるという点で、家計や企業とはまったく異質の存在です。家計や企業と違って、政府は通貨を発行して、その赤字を埋め合わせ、債務を返済することができるのです。もっと言えば、通貨を発行できる政府が、その通貨を借りなければならないなんて、おかしいではないですか。

 ですから、政府のいわゆる「赤字」や「債務」を、家計や企業の「赤字」や「債務」のように考えてはいけないのです。

 しかし、「赤字」や「債務」という言葉のもつ影響力は、非常に強い。MMTの明快な論理を弾き飛ばすほど強いのです。多くの人々は、「財政”赤字を拡大してよい」「政府”債務が増えても問題ない」という言葉にどうしても抵抗感を覚えてしまうのです。

 

 ちなみに、財務省も、メタファーのもつ影響力をうまく利用しています。

 例えば、財務省は、4月17日の財政制度等審議会の資料の一ページ目で、財政赤字のことを「将来世代へのツケ」と表現しています。

https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/proceedings/material/zaiseia310417/01.pdf 

 ところが、その一方で、同じ財務省が作成した個人向け国債の広告動画は、こう語りかけています。

「それは、未来への贈り物。個人向け国債」

https://www.youtube.com/watch?v=TsYTFhQAqaA

 つまり、財務省は、国債発行を減らしたい時には「将来世代へのツケ」、国債を買ってほしい時には「未来への贈り物」というように、メタファーを使い分けているのです。ちなみに、どっちのメタファーがより正しいのかと言えば、それは圧倒的に「未来への贈り物」の方です。

 というのも、誰かの債務は、別の誰かの債権です。
 ということは、政府の債務は、民間の債権です。つまり、国債は、国民の「資産」なのです。

 そして、政府は、国債の償還のために徴税する必要はありません。政府は、借り換え(国債の償還のために、新たに国債を発行すること)を繰り返せばよいのです。

 ですから、政府債務は「将来世代へのツケ」にならないのです。

 しかも、国債を発行して財政支出を拡大し、インフラや教育、技術開発のために使えば、将来世代に「ツケ」どころか「資産」を残すことができるのです。

 

 論理的に考えれば、「未来への贈り物」の方がより正確なメタファーです。

 しかし、やはり「将来世代へのツケ」のメタファーの影響力の方が強力なようです。

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中野 剛志

なかの たけし

1971年、神奈川県生まれ。評論家。元京都大学大学院工学研究科准教授。専門は政治思想。96年、東京大学教養学部(国際関係論)卒業後、通商産業省(現・経済産業省)に入省。2000年よりエディンバラ大学大学院に留学し、政治思想を専攻。01年に同大学院にて優等修士号、05年に博士号を取得。論文“Theorising Economic Nationalism”(Nations and Nationalism)でNations and Nationalism Prizeを受賞。主な著書に『日本思想史新論』(ちくま新書、山本七平賞奨励賞受賞)、『TPP亡国論』(集英社新書)、『日本の没落』(幻冬舎新書)、『目からウロコが落ちる 奇跡の経済教室【基礎知識編】』『全国民が読んだら歴史が変わる 奇跡の経済教室【戦略編】』(KKベストセラーズ)。  

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  • 剛志, 中野
  • 2019.04.22